不惑倶楽部講演会

2005/10/17

平成17年度第1回不惑倶楽部講演会  2005年9月10日

平成17年度第1回不惑倶楽部講演会を開催致しました。近隣の惑チームにもご案内をさしあげ、会員39名、聴講者5名(神惑1名、熊惑2名他、会員友人2名)の計44名の皆様にお集まり頂きました。

日時 : 平成17年9月10日(土)午前11時
場所 :東京体育館 第1会議室
講師 :村上 晃一氏
ラグビージャーナリスト。
1965年3月1日京都市生まれ。40歳。
京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。
現役時代のポジションは、FB。
86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。
87年4月ベースボール・マガジン社入社。
90年6月よりラグビーマガジン編集長。
98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者としてラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)、スポーツヤア(角川書店)スポルティーバ(集英社)などに主にラグビーについて寄稿。
スカイパーフェクTV「Jスポーツ」ラグビー解説者。
著書に「空飛ぶウイング」(洋泉社 99年9月発行)がある。

村上晃一氏「世界のラグビー四方山話」

 諸先輩が多数おられる中で、今年3月不惑になったばかりの私のようなものにお話をさせて頂くという事で、とても光栄に思っております。今はJスポーツのラグビー解説が主な仕事になっていますが、今回、大阪体育大学の先輩で、不惑倶楽部所属の手塚さんにご紹介頂きました。手塚さんの本の編集者としても仕事をさせて頂いた事も有ります。スポーツ専門出版社であるベースボールマガジンに11年おりましたので、その時に、手塚さんの本の編集もやりました。そのご縁で今回ご紹介いただいた次第です。ベースボールマガジン社に11年間いて、1年間は出版部、あとは10年間ラグビーマガジン編集部にいました。その間、編集長を6年半位やりました。現在はフリーでやっています。
 今日は世界のラグビーの話ということで、ラグビーマガジンに10年間いて、それからフリーになって8年目ですが、約18年位、色々なラグビーを取材して来たことをお話し出来ればいいかなと思っています。出来るだけ「今」のお話をしたいと思います。

1.大体大でラグビー

 自分は、京都で生まれました。京都府立鴨沂(おうき)高校、昔1回だけ花園に出たことがある高校です。それは昭和40年頃で、対戦相手は小倉工業、後の日本代表のロックの寺井さん達がいました。そこに勝ったそうです。
 寺井さんは、「鴨沂高校には恨みを持っている」と、以前、おっしゃいました(笑)。桂口さんもいた。そんな時代に花園に出ています。
 僕の時代は伏見工業とか花園高校が強く、あまりそういう機会がありませんでした。

 京都ラグビースクールに山口良治先生(その後伏見工業を日本一にしましたが)がいて、山口先生にいろいろ教えて頂きました。そこで、僕もラグビーがどんどん好きになりました。その後、大阪体育大学に行き、大学3年生のとき、初めて大学選手権に出ました。
 それは、ちょうど、上田昭夫監督率いる慶大が日本一になった時で、青井さん達と対戦しました。ハーフ団が生田、清水ですね。1回戦を花園でやって、前半30対4で負けていて、後半20点位を取って、ぎりぎりまで追い詰めたと思います。あと10分あれば、勝てたんじゃないか(?!)、というような試合でしたが、そのまま慶大が社会人を倒して日本一になりました。
 4年生のときは、大東文化大にラトゥー、ナモアがいて強くなった時で、1回戦、その大東文化大と瑞穂で対戦し、15対9の1トライ差で負け、国立へはいけませんでした。
 そういう世代でラグビーをやっていました。

2.解説は経験でしゃべってはいけない

 その後、ラグビーマガジン編集部(ベースボールマガジン社)に入って、色々なラグビーを勉強していくのですが、まあ、大学時代はラグビーをただプレーしただけですので、よく知らないことが多かったんです。でも、ラグビーマガジンにいて色々な事がわかりました。それで、ラグビーの知識を得ていったわけです。

 今、僕と一緒に解説をやっている人で、小林深緑郎(こばやし しんろくろう)さんがいます。彼はラグビーをやったことがない。やったことはないのですが、ものすごく詳しい。彼とは、入社して3年目で出会いました。いろんな話を聞いているうちに僕が一番感じたのは、『ラグビーは、やっていないとわからないスポーツだ。』と思っていたのですが、やらなくてもここまで詳しくなれる、ということです。
 選手の見方でもすごくしっかりしている。それが、僕にとってすごく刺激になりました。その後、僕はテレビで解説などしていますが、解説するときは「経験でしゃべってはいけない」と、いつも思います。経験でしゃべると僕は日本代表になった訳ではないので、結局そこまでの経験しか語れない。やはり、自分で取材してきたことでしゃべっていきたい。

3.ラグビージャーナリストは仲がいい

 一つ小林さんのことを。
 小林深緑郎さんは何者だ?と思っておられるでしょうが、彼は立教大学出身です。ラグビーはやっていなかったのですが、今は、「ひたすらラグビーについてしゃべり、書く事」が、彼の仕事です。
 「どうしてラグビー好きなのですか?」と、聞いたことがあります。すると、「世界中のジャーナリストに質問のFAXを送って、絶対帰って来るのはラグビーだけだ」と言うのです。小林さんはサッカーについても大変詳しいので、そういう事もあるのでしょうが、ラグビーだけは、絶対に返事が返ってくる。しかも、なにか報酬を求めるわけでもない。これは、ラグビーをやっている方々の中で、皆さんそういう感覚をもっている。ジャーナリストもそういうところがあり、取材している人間はものすごく仲がいい。世界中にジャーナリストの友達がいたりして、日本のラグビーを取材している記者達も、すごく仲が良い。これはサッカーでは、あまりないことのようです。
 ラグビーというのはそういう雰囲気を持っているスポーツだな、と改めて感じます。僕も謙虚にやっていきたいと思っています。

4.ワールドカップ招致の可能性

 ちょっと世界のラグビーの話をしていきたいと思います。
 みなさんが、今ちょっと興味持っているのは、「日本がワールドカップを招致していているが、どうなるのか?」ではないでしょうか。
 現在のところは、ニュージーランドと南アと、ほとんど5分5分です。全く並んでいる状態です。どこが選ばれるかわからない。IRBの意向でいけば、日本が当たり前になるのですが・・・。
 グローバル化を目指しているIRBとしては、日本に来るのが当たり前ではありますが、どうも、IRBは、ワールドカップでお金を稼がないといけないシステムなっているので、「お金を一番稼いでくれるところでやって欲しい」ということですね。
 基本的にIRBには、ワールドカップをやるとスポンサーのお金が全部入ります。日本には観客動員の入場料しか入りません。そういう厳しいことをやらないといけない。
 今、ニュージーランドと南アの方は、政府がお金を保証するということで閣議決定していっています。日本はそれが出来ない。日本はお金の面で出遅れているわけです。観客動員の面でも結局ニュージーランドと南アはお客さんが確実に入るけれども、日本は難しいですね。全部の会場満員というのは難しい。ですから、収支の面から難しい立場にいます。
 ただ、アジア全体に新しいマーケットを拡げるということでは日本ということであり、今は、わからない状態です。
 IRBというのは主要8カ国が2票ずつの票をもっていて、あと日本、カナダ、アルゼンチンとイタリアが1票ずつもっています。ワールドカップの選出のときはアジア協会、オセアニア協会、アフリカ協会とヨーロッパ連盟ですね。この4つが票をもっている。この票を集めないといけない、―ということで、今、日本に確実に入れそうなのはオーストラリアくらいです。フランスはよくわからない。ですから、日本がもしワールカップを招致するためには、ウエールズ、スコットランド、アイルランドあたりの票を集めないといけません。これをどう日本に持ってくるか・・・。
 2007年はフランス大会ですが、フランスはイングランドと競合していました。どっちになるかで、イングランドは自国開催を主張していましたが、フランスは票を取るために「アイルランド、スコットランドとウエールズでも試合します」と言った。その票を持っていって、フランスは2007年を実現しました。
 日本は共催は出来ないですが、少なくとも参加国に対し、なんらかの利益を与えてあげなければ、票は取れない。そこがワールドカップ招致の焦点です。今年11月18日に決まります。

 例えば、オーストラリアが2003年のワールドカップをやりましたが、48試合で観客185万人以上集めた。1試合平均3万5千人以上入っています。これはすごい数字です。すべての競技場でほとんど空席が目立つ試合がなかった。
 日本で1試合3万5千人以上、48試合すべて集めることは難しい。どう考えても難しい。例えば、ウルグアイとグルジアの試合でもオーストラリアでは入っています。日本で、そういう試合は田舎で行われ、入るか?となると難しい。いずれにしてもこの11月に決まりますから、その後、もう一度やり直さないと、ワールドカップの成功は難しいです。

5.ワールドカップベストゲーム

 第1回のワールドカップのときは、ラグビーマガジンに入った年で、留守番部隊でした。そのときは、オールブラックスが優勝しました。
 第2回1991年のとき、現地取材に行き、決勝トーナメントは全部行きました。ダブリン、エジンバラ、パリ、ロンドンを回りながら取材をして、世界のラグビーの素晴らしさを実感しました。
 まずダブリンで、アイルランドが優勝候補のオーストラリアを追い詰め、ぎりぎりで負けましたが、アイルランドのラグビーは素晴らしかった。最後ぎりぎりのあと5分位で1回逆転した。お客の盛り上がりは、ものすごいもので大騒ぎでした。ダブリンはホームのアドバンテージが一番強いところですね。結局、最後はマイケル・ライナーがトライしてオーストラリアが勝つのですけれども。1991年のワールドカップの中でも、非常に面白い試合でした。

 僕が1991年のワールドカップで一番面白いと思ったのは、準決勝のイングランドとスコットランドの試合でした。もう一つの準決勝は、ニュージーランドとオーストラリアの試合で、これも面白かった。ジョン・カーワンとキャンピージの対決とか、非常に面白いシーンがたくさんあったけれども、僕はイングランドとスコットランドの方が面白かった。
 なんで面白かったかというと、スコットランドは明らかに「弱い」。スコットランドにはフルバックにヘイスティングス、両フランカーには「ホワイトシャーク」といわれた真っ白の髪のジェフリーとコールダーがいて、これにプロップのデヴィッド・ソールという小さい一番のプロップの4人が、自陣のペナルティキックから、ほとんど速攻して攻める。そこでずっといい勝負になって、最後PG差で負けるのですけれども、これがものすごく感動した。スコットランドはほとんどハイパントでした。
 お客さん的には、ニュージーランドとオーストラリアがはるかに面白かったらしいですが、僕は、イングランドとスコットランドの試合にすごく感動しました。やっぱり、ラグビーの感動というのは、華麗なプレーばかりの試合より、本当に強いチームに立ち向かって、ひたすらタックルし、ひらすらハイパントを追いかけていくところにある。僕はそういう方が好みです。
 今でも、ワ−ルドカップのベストゲームとして、イングランドとスコットランドの試合を話したくなる。結局、最終的にはイングランドとオーストラリアの決勝になるわけですが、結局オーストラリアが優勝しました。

6.現場にいかないといけない

 1995年南ア大会は、政治的な事もあり、マンデラ大統領がスプリングボクスのジャージーを着て開会式に出て来ました。これが大きく取り上げられた。
 なぜ取り上げられたかと言うと、白人政権の迫害で閉じこめられた牢屋から出てきて、白人のスポーツの象徴であったラグビーのスプリングボクスのジャージーを着て出てくるというのは、「白人を赦す」ということの象徴なのです。南アのワールドカップは特別な大会になりました。
 僕はこの大会は現地に行かずに編集長としてずっとデスクワークをしていました。
 このとき感じた事がひとつあります。1991年の時は現地に行って現地から原稿を送りました。このときの原稿は、ものすごく熱くて、20代の若さですから一生懸命書いた。ところが1995年は現地に行かずにデスクワークで本を作りました。
 すると、大会が終わってからの本の出来がぜんぜん違う。1991年のときの方がいい本で、結構厚く出来ている。1995年の時は、行かずに編集しているので、あまりよく出来ていない。そのとき思ったのは、「やはり、現場にいかないといけない、テレビをみただけではわからない、ラグビーは現場をみないといけないな」ということです。それが後にフリーになって現場に戻っていこうとした一つの理由でもありました。「報道を見たりしているだけでは伝わらないものがあるな」と思ったのです。そのときの経験が今につながっています。ですから、だから僕はできるだけ現場を歩きたいな、と思っています。
 昨日も関東学院大学の練習を見に行ってきました。楽しいからやっているのですが、それが放送する側としては、やるべきことだと思っています。

7.解説席に名選手ずらり

 1999年には、Jスポーツの解説者としてワールドカップに行きました。
 1995年からラグビーがオープン化され、1999年はプロ化以降では初の大会で、急激にラグビーのレベルが上がりました。
 1995年9月にアマチュア規定が撤廃され、グラウンドでプレーをしてお金を貰っていいことになったのです。それまでは、グラウンドでプレーしてお金をもらってはいけないのが世界のルールでした。
 日本では『講演してお金を貰ってはいけない』など、拡大解釈したアマチュアリズムをやっていましたけれど。オープン化というのは、プロとアマチュアが混在していていいということです。ですから、プロ化とは言いませんでした。
 1995年と1999年のワールドカップのレベルは著しく上がったという印象があります。その1999年Jスポーツの解説者として向こうにいっていました。
 印象的だったのは、開会式における各国テレビのブースで、ずらっと机が並んでいました。南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアなど世界各国のテレビ局が来ていて、南アフリカには解説でスタンドオフの超有名なナース・ボタが座っている。オーストラリアにはニック・ファージョーンズ、フランカーのポイデヴィン、ウエールズはフィル・ベネット、ジェラルド・デービス、フランスの席にはフィリップ・セラがいました。すごいメンバーの解説者がいましたが、日本の解説席は僕と小林深緑郎さんで「これはちょっと情けないぞ(!?)」、そうは思ったけれど、やはり、日本には世界のラグビーに詳しい人が少ないからそのようなことが起こるのです。選手達も世界のラグビーに詳しい選手がいれば、世界に出てもまあまあという選手がいれば、そういう席にも名選手がいるはずですが、基本的にそういう選手がいないので、あのようなことが起こるのです。世界で一番有名なのは、僕が本を書いた坂田好弘さん位で、ニュージーランドでかなり成功したと思います。
 中々そういう人がいないから、僕はラッキーでした。ウエールズの開会式ではグランドに1960年代、70年代の名選手達が出てきて、ウイリアムス、バリー・ジョーンズなどそういう選手達が僕たちとグランド一周しながら、昔のビデオを映したりして、とてもいい大会でした。

8.「システム」のしっかりしたチームが強い

 このときはオーストラリアが優勝します。2003年度はイングランドが優勝します。
 第1回からニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、オーストラリア、イングランドが優勝している。ワールドカップを振り返って思ったのですが、結局どういうラグビーをやっているチームが勝っているかといいますと、システマティックなチームが勝っています。システムのしっかりしているチームが全部優勝しているのです。
 最初に言われたのは、1987年のオールブラックスですね。非常にシステマティックだった。「どうシステマティックだったか」というと、例えば、右方向の攻めは全部ポイント作り、ウイングのジョン・カーワンとかフルバックのギャラハーが縦に行って、最後11番が必ず取る。右、右と、右を攻めて、最後に左WTBのグリーンが取る。パターン化された動きが多かったですね。
 その時は、これからのラグビーは「システマティックになっていく」といわれていましたが、ただ、その先には個人技の時代が来るだろうといわれていた。でも、そうではなくて、どんどんシステマティックになって行きました。
 1991年に勝ったワラビーズは組織ディフェンスですね。すごいディフェンスをした。
 今の世界、日本でも内側から外側へ押さえていく。昔のマンツーマンで飛び出してタックルで止めていた方々には非常にわからない。僕もわかりませんが・・・。
 内側から面で押さえ、最後外に押し出していく。1991年のワールドカップでオーストラリアが、初めてそういうディフェンスを組織化しました。理論化したことをやりました。
 1995年の南アフリカも非常にシステムがしっかりしていた。あのチームもキッチ・クリスティという名将がいた。南アもパターン化されたゲームをやりました。
 1999年のワラビーズは、1991年よりさらに進化して、ほとんど突破はセンターのティム・ホランですね。そういう突破の仕方でも非常にシンプル。2003年イングランド代表は結局FWの強さ、役割分担された動きで勝っていった。個人技、個人技といわれて、ニュージーランドとかフランスがあまり勝てないで、最終的にいつもシステムがしっかりしたチームが勝つということは、現代ラグビーを象徴していると思います。
 ほとんど各国のレベルが同じくらいで、体やプレーも同じようなことをやって、練習も同じようなことをやる中で、「勝つとはどういうことか」というと、「正確にプレーが出来るかどうか」ということであると思います。正確にプレーが出来るためには、ある程度「決めて」いかないといけません。やることを「決めて」いかないといけないのです。

 僕はラグビーマガジンなどで優勝チーム予想をやって、91年から一応全部当たっているんです。特に印象に残っているのは、1999年のことで、W杯前に、南ア、ニュージーランド、オーストラリアの監督それぞれにインタビューできる機会がありました。そのときオーストラリアが絶対勝つと思いました。なぜかというと、ロッド・マックイーンさんという監督でしたが、チーム作りの質問に対する答えがシンプルで簡単でした。一番自信に溢れていました。
 チームの雰囲気がよくて、例えば、合宿中に家族を呼ぶ日を設けたり、合流するする日を作ったりと、自由な雰囲気の中で、選手のモチベーションを落とさないように一生懸命ケアをしたりもしていた。そういうオーストラリアの雰囲気を感じて「これは強そうだな」と思いました。そして、実際にオーストラリアが優勝しました。
 そのとき、ロッド・マックイーンさんに、世界のラグビーの強豪国について一言で表現して欲しいと質問しました。そうしたら、「ニュージーランドはスピード、南アはパワー、オーストラリアは組織、フランスはひらめき、イングランドは情熱」と。イングランドは、気合で相手をねじ伏せて、絶対負けない気持ちの強いチームです。オーストラリアは組織勝負。細かくゲームを細分化してトレーニングをする。センターのパスや、抜くときの抜き方の角度、そういった細分化された練習をしているようです。
 「あっ、なるほど、強いチームは一言で言い表せる事が多いな」と思いました。
 こういう機会に話しをさせていただくとき、いろいろなチームの方々にいうのですが、一言で言い表せるチームを作った方が非常に強くなる。
 僕がいたときの大阪体育大学は「ヘラクレス軍団」と言われました。筋肉だけが立派なのですけれども、プロップは筋肉で相手の頭を押さえ込む。週3日間はボールをもたず、ひたすら3時間も4時間もウエートトレーニングしていた。それでも同志社に勝ったりして、そこそこまでいく。何か決めてやると、強くなっていけるということです。世界のトップでも同じようなものですね。

9.南アの選手は「お買い得(?!)」

 この間、トライネーションズに、オーストラリアとニュージーランドの試合を見に行って来ました。世界で一番レベルが高いリーグ戦はトライネーションズです。
 オーストラリア、ニュージーランド及び南アが戦うリーグ戦です。
 今年は3カ国がホームアンドアウエイで戦っていますが、来年はそれぞれ3試合ずつ行い、試合数が増えます。今年はニュージーランドが優勝しました。
 南アも、今年はめちゃくちゃ強かった。シンプルという意味では、今年の南アほどシンプルだったことはないです。もちろん細かいシステムはあるのですが、基本的にフルバックのモンゴメリーが『ドン!』と奥深く蹴って、そこから相手が蹴り返せば、すぐ蹴り返す。相手がカウンターを仕掛けてきたら、がんがんタックルして、ミスを誘って、ボールを拾ってトライをする。このパターンです。
 南アはフィジカルが一番強いので、「これで勝負!」と決めている。
 ほとんどボールを持たないですから、ワラビーズとかニュージーランドのボールポゼッションは6〜7割と高い。7割位でも、南アが勝つ。非常にタックルが強いので、タックルしてこぼれ球を拾う。ものすごくシンプルです。自分たちの強さを最大限押し出す。
 最終的にニュージーランドと南アが優勝を争いましたが、両方ともセットプレーは確実で、最終戦のワラビーズとオールブラックスの試合では、オールブラックスはラインアウト15回の機会でミスなし。タックルの成功率も高かった。
 もちろん、ワラビーズの方もタックル機会102回で10回のミスだけで、両チームともあまりタックルミスしない。そういう数字的なものも非常に安定感がある。ただ、ワラビーズはラインアウト機会11回で4回ミスしている。ちょっとワラビーズの方が不正確でした。
 やることをシンプルに決めているチームが強い感じがします。オールブラックスは少し選手の自由度を持っているところなので、ワールドカップに勝てないのはそういうところであると思います。試合で必ず緩むところがあるんです。ちょっとした判断ミスが出る。この間のワラビーとの試合を見ても、後半の30分間はワラビーズの時間帯でした。そのときオールブラックスは完全に緩んだ。これはがちんがちんにシステムを決めていないところが出るのかなと思われます。
 2007年のワールドカップに向けて、ニュージーランドのヘンリー監督が「この3チームの争いになる」と言っていました。 今後も、結局ワールドカップになるとワラビーズが強いのかなとも思いました。もちろん今の時点での話ですが。
 南アは今回、トライネーションズで最終的に「勝点差」でオールブラックスに優勝をさらわれましたが、21歳以下のワールドカップ及び19歳以下のワールドカップでは、優勝しています。トライネーションズもほとんど優勝に近いですから、今後、もっともっと強くなる可能性があります。特に若い世代に、ものすごくいい選手がたくさんいます。世界にだんだん流出しているので。・・・それがちょっと問題のようですが、なにか、いま南ア選手は獲得しやすいようです。
 ニュージーランドやオーストラリアはエージェントがしっかりしていて、かなりマージンを取られるらしいです。南アの選手は、無名選手でもかなりいい選手がいて、低コストで呼べるようです。 これから、日本のトップリーグでも、南アの選手が増える気がします。

10.世界のメジャーなリーグ

 先程のトライネーションズは、2試合ずつ、3カ国の組み合わせになりますが、スーパー12は、来年からスーパー14になります。つまり、14チームになります。
 今年まではニュージーランドに5チーム、オーストラリアに3チーム、南アに4チームありましたが、オーストラリアと南アに1チームずつ増えます。オーストラリアはウエスタンフォースといって、パース、―あまりラグビーが盛んでなかった西海岸の方―、に新しいチームを作って、既に選手を引っ張っています。
 今回、ワラビーズでいえば、フッカーのブレンダン・キャノン、ロックのナイサン・シャープ選手が決まっていて、既にファンクラブの会員が一万人を超えていて、「一番大きなクラブになりそうだ」といわれています。
 南アの方はチータースというチームが入りますが、実は南ア協会がチータースを決めた後に、反対意見が出て、どうやら2年目からは違うチームが出て来そうです。南アは、相変わらずそんなことばかりをやっています。
 スーパー12は1996年から10年間やりました。
 世界にどういうメジャーなリーグがあるか。世界的にいうとシックスネーションズとトライネーションズが南北の一番大きな大会です。実力的な位置づけで言うと、南半球はトライネーションズの下にスーパー12があり、その下に南アのカリーカップとニュージーランドのNPCがあります。オーストリアの州代表は強い地区が少ないので、あまり注目されない。
 シックスネーションズの下はヨーロピアンカップがあり、その下にイングランドのプレミアシップ、フランスはトップ14、ウエールズ、スコットランドとアイルランドのチームがやっているセルティックリーグがあります。

11.プロ化の現状

 これらのリーグは大体プロです。これ以外は選手が全部プロとはいいにくいです。NPCは今一部リーグが10チームあり、一応プロで選手の契約もあります。来年からNPCも12チームにして、そこはプロで、後はアマチュアと分けるようです。
 イギリスのプレミアシップも12チームでやっていますが、これがプロで、後はアマチュアという感じに分けています。今、世界はアマチュアとプロを分ける傾向にあります。
 セルティックリーグも12チームで、ウエールズのクラブが合併したチームを作ったりしていて、また、スコットランドは完全に州代表をプロ化したような感じになっています。
 この間に出てきたのが、日本の「トップリーグ」です。
 どういう意味かというと、世界の選手でこれからプロとして生きて行く選択肢の中に「トップリーグ」が入ってきたと言うことです。
 「このリーグでは無理なので、日本のトップリーグでやってみたい」という選手が出てきている。試合数が多くなくて、楽なので来る選手もいます。
 NZの選手で言えば、スーパー12で11試合、トライネーションズ4試合、NPCも9試合、これにクラブレベルも入れると年間30試合位ある。1年間はそれ位が限度です。
 イングランドはエリートプレーヤーを60人位作り、ここに入っている選手は、年間32試合しかしてはいけないと決められています。プレミアシップは12チームがホームアンドアウエイでやるので1チーム22試合はあります。これを全部やり、ヨーロピアン・カップ、国内のカップ戦、イングランド代表の試合を含めると、すぐ32試合になってしまうので、プレミアシップでお休みの時間をもつ。全部やるとすぐ50試合位出来てしまう。そのため、制限をしています。
 疲労が蓄積して怪我する選手が増えているので、出来るだけ試合を制限しようとしているのです。来年からは、トライネーションズとスーパー12の試合数が増えるので、南半球の選手は下の試合には出ないようになるでしょう。

 世界各国でいろんな強化が進んでいますが、基本的にしっかりプロとして成り立っているのはフランス、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、南アです。
 プロ化のやり方の違いとしては、北半球は単独クラブがプロ化しています。南半球は州代表がプロ化されている。システムが違うのです。そういう意味でいうと、選手の受け皿としては北半球の方があります。クラブがプロを持っているからです。南半球の方は州代表に選ばれないとプロになれない。イングランドやフランスはクラブに入れさえすれば、若手でもそこからプロになる形が出来ています。
 2003年W杯でイングランドが優勝した一つの理由に、プレミアシップの成功があると思います。高いレベルで12チーム分のプロがいる。スーパー12ではニュージーランド5チームとかオーストラリア3チームとかですから、選手層はイングランドの方がかなり部厚くなって来ているわけです。フランスのクラブも強いです。

12.将来の資格作り必要

 選手の報酬で一番高いのはプレミアシップですが、トップの選手でも最高年間4000万円位で、他のプロ・スポーツに比べれば大したことはないです。世界のトップ選手が3000〜4000万で、少し下の1.5級選手で、2000万台。これを本当の「プロ化」というのか、非常に難しいところですね。
 ヤマハ発動機にいたケビン・シューラーさんが言っていましたが、「今の生活は出来るが、プレーをやめた後の生活までは出来ない。というのが今のラグビーのプロ化で、選手は後の人生を考えなければいけない」と。ニュージーランドも同じことなのです。
 ですからいろんな資格をとらせるような教育をしている。税理士とか体育の先生の資格とか。選手の方も考えていまして例えばオーストラリアではジョン・ローというNO.8がいますが、医師の資格を取っています。日本でもサントリーの小野澤選手は教師の免許を取ろうとしている。だんだん選手の意識がそういうようにいっています。
 選手だけではその後食えない。世界共通です。
 日本の選手が海外でなかなか活躍出来ないのは、もちろんレベルの差はあるのですが、行っても給料が日本より悪くなったりすることが一つ大きな原因です。サッカーだったら、海外で成功すれば富を得られますが、ラグビーの場合行って成功しても日本の企業にいた方がよかった、という話になる。なかなか踏ん切れない。そういう状況です。

13.これからのラグビーの方向

 ざっと世界の話をして来ました。日本代表が苦しんでいます。
 今後のラグビーの趨勢からいうと、ものすごくフィジカルなもの、体の強さを前面に押し出すラグビーが多くなるでしょう。
 例えば、南アのディフェンスは、ラッシュアップといって、思い切って前に出てくる。スペースが全然ない。これをやりあうと、攻撃がなかなか出来ないので、どうしてもキックが多くなります。この間のトライネーションズも、比較的キックを使うことが多くなって来ました。
 この傾向はしばらく続くと思いますが、このままではルール改正になってくるのではないかと思います。昔ラインアウトのオフサイドライドラインを10m下げたり、スクラムのオフサイドラインを下げたように、もっと下げるようなルール改正が行われるのではではないでしょうか。
 ラインアウトは10mあるが、スクラムでオフサイドラインを何m下げるとか、モールラックのオフサイドラインを少し下げる。そういうことをしないともうスペースがない。オフサイドラインを下げるか、レフリーが相当厳しくオフサイドをとるようになるのかな、と思います。
 トライネーションズを見ていたら、ラックに戻りながら入る選手が多いですね。余りにもスピードがあるのでレフリーは笛がふけない。ですから完全に後から下がって入らないで、皆下がりながら、「横からさっと入るような感じ」になっている。この辺もこれから変化があるのかなと思います。

14.ラグビーを大事に考えろ

 Jスポーツで仕事をさせて頂いていますが、Jスポーツだと、なかなか見られない人が多いということで「地上波でもっとラグビーを放送して欲しい」という要望が多いのですが、これは当然のことだと思います。
 スポーツのテレビ中継自体を視聴にお金のかかっているスポーツの方にシフトしていって、地上波ではスポーツ中継をやらなくなってきた。Jリーグも最近は民放では見なくなってきています。そういう時代になった。
 もともとラグビーのテレビ放映が多かったのはラグビーに人気があったからであって、テレビでやったから、ラグビーの人気が出たわけではないのです。もちろん相乗効果ですけれども、もともとはラグビーにお客さんが結構入る。注目度が高いということで、テレビが来たと思います。
 やっぱり秩父宮をどんどん埋めていくようなことをやって、テレビが来てくれることをやっていかなければいけない。まずスタジアムを埋める努力をやって欲しいです。ラグビー協会だけでは出来るものでないので、我々携わっているものが、皆でやっていかなければと思っています。どうしても組織になると、色々な立場があるのですけれども・・・。
 僕は大学(大阪体育大学)の坂田先生によくいわれるんです。「しがらみは色々あるだろうけれど、ラグビーを大事に考えろ。しがらみでなく、ラグビーをどう大切にしているかを考えよう」と。僕は共感しています。ラグビーをどう思って欲しいか。ラグビーのことを悪いイメージにならないようにするには、どうしたらいいか考えるとき、自分の立場はもういいじゃないか、と。
 「ラグビーを大事にしようよ」。そういう発想になれば、いいものが作れるのではないでしょうか。根本的な話ですけれど。

 ずっと取材をしていて、協会のシステムの中で、下の人の意見が上に繋がらなかったり、うまくいかないのを見てきて、そんな気がします。なんとかトップリーグが盛り上がって欲しいと思います。今は大学ラグビーの人気に押されている。大学ラグビーといっても早稲田大学ですけどね。
 僕は、いま自分でラグビーのブログといって、ホームページみたいなものをやっています。3月初めから毎日書いているのですが、春一番多かったのはアイルランドと日本代表の第1戦の次の日、アクセス件数が6000件以上ありました。あの試合の評価をファンは知りたい。「どう思ったのだろうか」、「これよくなかったのではないか?」ということで、知りたいから見るんですね。
 次に多かったのは、夏の菅平の早大と関東学院大の試合です。
 翌日、ものすごく来ました。皆さんが結果を知りたかった。日本代表の結果より多かったのにびっくりしました。早大に関してはものすごく関心があるようです。

15.サインよりセオリー優先

 早稲田大学の清宮監督にインタビューしました。
 早稲田にはセオリーがあって例えばウイングが大幅にゲインして捕まったとき、もう1回FWが、サイドをボールを持って走ることは禁止されているとのことです。それは「無駄なこと」であるというのです。『そこまでゲインしているのだから、それを、もう1回FWが行くのは、ディフェンスが戻る時間を与えしまう。1回のパスで、ミスをする可能性がある。そこはすぐ大きく振る。そうするとディフェンスが戻ってこない。すぐ振っているのでスペースが一杯ある』と。このように、このシチュエーションの時はこうしよう、と言う様な事がたくさん作られています。
 これは決め事でなくセオリーなのだそうです。「当たり前のことをやろう」という事で、例えば、左オープンに振ってウイングが走って、相手のウイングがタックルに来たときは、絶対もう1回左に振る、―これは共通のセオリーです。
 ウイングがタックルしているから、「左」があいているのが当たり前である。これを言葉で選手に伝えてあると。そうすると選手はウイングがタックルに来たとき「こっちにいかなければ」と思います。
 こういうセオリーを、積み重ねているといっていました。
 サインプレーは出るが、セオリーが優先します。
 例えば、「左オープンに振って、ポイントが出来た時は、今度右オープンに振る」というサインプレーを出していたとして、左オープンに出したとき、たまたま相手ウイングが詰めてタックルした時、サインでは「右」にいくのですが、セオリーは「左」なので「左」に行く。選手はセオリーで動く。左が空いているのでトライが取れることが起こる。そういうことを彼と話していて「これは強い」と・・・。
 いい選手がたくさん入っていて、チームを作りながら、共通するセオリーを選手たちは持っている。だから動きがすごくスムーズになる。サインでなく、相手がこう来たらこう、センターがタックルされたら、こっちに行こうと決まっているから、その場にいた選手が自分の役割として判断できる。
 オーストラリアはすべてセオリーで動くそうです。ですからメンバーが変わっても同じような動きができる。ニュージーランドはちょっと違います。個人の自由度を残しているチームはメンバーが違うと変わります。オーストラリアはセオリーがしっかりしているので、怪我人を大量に出しても、ニュージーランドといいを勝負したのは、そんなところかなと思いました。
 清宮監督は、オーストラリアの影響をかなり受けていると思います。彼が培ってきたものは早稲田で培ってきたものの上にあると思いますが、考え方としてとても面白いと思いました。
 例えば、高校で4連覇している啓光学園でも同じような傾向を持っています。考え方が決まっている。各選手が共通したものを持てるチームが強い。これは取材してきて僕が感じていることです。

 (編集注:ご講演はここまでで、この後、質疑応答になりました。)



世界ラグビー物知りクイズ

 村上晃一様はクイズ形式の質問を10題ほど盛り込みながら、飽きないお話を80分間、たっぷりお話し下さいました。
 以下に、当日出題のクイズを記載します。
1.第一回W杯優勝チームNZのキャプテンは?
2.第二回W杯最優秀選手は?
3.第三回W杯初出場チームは、コートジボワルとどこ?
4.第四回W杯最優秀選手は?
5.初回Tri Nations優勝チームは?
6.Super12最多優勝チームは?
7.Super12最多得点者は?
8.Super12歴代トライ王は?(今、トップリーグ所属選手です)
9.オールブラックス監督のヘンリーは、その前ヨーロッパのどこの監督をしていたか?
10.2005年Tri Nations最終戦オーストラリア対NZで最多キャップタイを達成した選手は?
解答はこちら



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